特定非営利活動法人東京労働安全衛生センターの成り立ち

特定非営活動法人東京労働安全衛生センター(略称:東京安全センター)は、労働者の安全と健康を守り、職場の労災職業病を防止し、快適な職場環境作りを支援するために2000年4月に設立された、特定非営利活動法人です。

 職業病医療を学ぶ研究会からスタート

 東京安全センターの前身は、1979年10月に発足された東部労災職業病研究会準備会です。東京都江東区亀戸の地で職業病医療を志す若き医師、看護師、鍼灸師が集まり、労災職業病の勉強を始めました。1981年5月には正式に研究会を発足させ活動をつづけ、1985年6月、東部労災職業病センターに発展しました。当時、東京東部の下町には、まだ中小規模の工場が多くありましたが、労働者がケガをしても、「ケガと弁当は自分持ち」とされ、泣き寝入りせざるを得ないことが少なくありませんでした。東部労災職業病センターは、そうした被災者、家族の労災申請や認定、ケガや病気の治療、職場復帰に向けた支援の活動に取り組んできました。その時期、東部地域では地区労運動が健在で、中小企業で労働組合が結成され、解雇撤回の闘いや工場閉鎖に対する労働争議支援など官民共闘による地域労働運動が活発に展開されていた時代でした。東部労災職業病センターも東部ブロック共闘会議に結集する地区労運動に支えられながら、被災者の駆け込み寺として活動する一方、職場での労災職業病講座や安全闘争の交流会などを行い、労働者、労働組合の安全衛生活動を支援しました。1987年7月、名称を東京労働安全衛生センターに改称しました。

法規準拠から参加型・自主対応の安全衛生へ

 1990年代に入ると、技術革新競争やポストバブルの社会経済の激変は、労働者の働き方、職場環境に大きな変化をもたらし、ストレス過剰な働き方によって心身の健康を損なう労働者が急増しました。1991年労働科学研究所(現公益財団法人 大原記念労働科学研究所)から出版された通称ILO(国際労働機関)トレーニングマニュアル(『安全、衛生、作業条件トレーニング・マニュアル』に衝撃をうけ、翻訳者の一人である小木和孝先生(元労働科学研究所所長、元ILO労働条件環境局長)の指導を受けながら、その後、参加型・自主対応型の安全衛生活動を地域の小規模事業場で実践しました。法令遵守を自己目的化せず、職場に潜む安全・健康リスクを洗い出し、優先順を付けながら、低コストで効果のある現場の改善活動に取り組みました。こうした実践経験のなかで、アクション・チェックリストを活用した職場巡回とグループワークによる改善提案、低コストで効果的な改善事例の活用など、参加型・自主対応型活動の手法を生かした現場改善に取り組むようになりました。

より現場に迫る活動を求めて

 2000年4月、労災職業病の根絶と健康、安全、快適で、ゆとりある職場環境作りに貢献していくことを目的に、NPO法人格を取得し、特定非営利活動法人東京労働安全衛生センターを設立しました。より労働現場に迫る活動を求め、2004年から作業環境測定事業をスタートさせました。東京労働局の登録作業環境測定機関として、多種多様な事業場で粉じん、有機溶剤、特定化学物質、重金属などを測定し、事業場の作業環境改善を支援してきました。加えて、労働衛生コンサルタント資格を有するスタッフを育成し、安全衛生の専門NPOとして実績を積んできました。2005年5月、尼崎市で起きたクボタショックを契機に、日本におけるアスベスト被害の深刻な実相が露わになるなかで、東京安全センターはアスベスト被害の根絶のために、石綿分析や石綿粉じんの濃度測定活動に着手し、石綿作業主任者技能講習を開催し、さらには建築物等石綿含有建材調査者などの育成にも力を注いできました。2011年3・11東日本大震災では、被災地の災害対策本部等に簡易防じんマスク(N95)1万個を届ける緊急活動を行いました。倒壊した建物やがれきに含まれるアスベストの濃度測定を継続して行い、石巻、気仙沼、仙台などの被災地で自治体、事業者、労働者、住民、ボランティアとのアスベスト巡るリスクコミュニケーション活動に取り組み、震災時のアスベスト対策を提言してきました。

ほんとうの「働き方改革」を

 現在、働くものを巡る環境は厳しさを増しています。新型コロナウイルス感染症はそれに拍車をかけています。「働き方改革」が叫ばれるなか、長時間・過重労働による過労死等の健康障害防止、職場のメンタルヘルス対策、ハラスメントは急務の課題となっています。未規制の化学物質による職業がんや健康被害を防止するための化学物質対策のあり方の抜本的な見直しが求められています。すき間と格差のないアスベスト被害の救済・補償、アスベスト被害の根絶、職場における新型コロナ感染症の感染防止対策、労災補償は待ったなしです。福島第一原発事故による原発被ばく労働に従事する作業員の安全と健康、権利確立なくして事故収束・廃炉は成し遂げられません。移住労働者の安全と健康の課題も問われています。小規模事業場に多発する労働災害、健康障害の発生の構造的な問題について、改善の兆しは依然として見えてきません。

いのちと健康はかけがえのない権利

 労働基準法の第一条は、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなけらばならない。」としています。働くもののいのちと健康は私たちの願いであり、かけがいのない権利です。東京安全センターは、この権利を守り、発展させるために活動しています。