脳・心臓疾患: 長時間労働など仕事の負担が原因となって、脳疾患(脳出血や脳梗塞)や心臓疾患(心筋梗塞、狭心症、心停止、不整脈を含む重篤な心不全など)が引き起こされます。

 一般的に、脳・心臓疾患は、原因となる動脈硬化などの変化(病変)が加齢や食生活、生活環境など様々な要因で起こり、進行することで引き起こされるとされています。一方で、仕事が非常に過重だったためにこの病変が著しく悪化して脳・心臓疾患が引き起こされた場合、「仕事が相対的に有力な原因となったもの」として、労災補償の対象になります。

 労災の対象となる脳・心臓疾患は、以下の通りです。

≪脳血管疾患≫ (1)脳内出血(脳出血) (2) くも膜下出血 (3) 脳梗塞 (4) 高血圧性脳症

≪虚血性心疾患等≫ (1) 心筋梗塞 (2) 狭心症 (3) 心停止(心臓性突然死を含む) (4) 重篤な心不全(不整脈によるものも含む) (5) 大動脈解離

 労災の認定基準では、「時間外労働が月45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できる」とされており、労働時間が長時間になればなるほど、こうした職業病のリスクが増していくことになります。

 そして、発症前の6か月間の労働時間について、「発症前1か月間に100時間または2~6か月間平均で月80時間を超える時間外労働」が認められる場合には、仕事が相対的に有力な要因となって発症したとされて労災と認定されます。また、2021年9月から労災認定基準が一部変更になり、月80時間を少し下回る場合でも、拘束時間の長い勤務・休日のない連続勤務・不規則な勤務・深夜勤務・出張の多い勤務など「労働時間以外の負荷要因」も考慮して労災と認定されるようになりました。

 脳・心臓疾患の労災請求が多い業種は、主に運輸業・郵便業、卸売業・小売業、建設業などです。しかし、脳・心臓疾患の労災認定率は最近、30%前後と非常に低い水準にあり、申請の約7割が労災と認められず却下されている状況です。

 残念ながら、長時間労働による脳・心臓疾患だとして労災申請すると、会社側は労働時間の記録を隠したり、誤魔化したり、否定したりすることが珍しくありません。客観的な労働時間の記録が無いと、なかなか労災として認めてもらえない実態があります。長時間労働に悩んでいる労働者の方は、タイムカード、タコグラフ、仕事用PCのログイン・ログオフの記録など、労働時間を客観的に証明できる資料を取っておくことが重要です。最近では、クラウド上の勤怠管理システムで労働時間が記録されている労働者もいます。そのような場合には、印刷したり、スクリーンショットを撮ったりして、手元にその記録を持っておくようにすると良いと思います。