<相談事例>餃子製造の作業負担で左手首を損傷したベトナム人技能実習生

機関紙「安全と健康 Safety and Health」に掲載している「相談から」の記事の一部抜粋したものを紹介します
記事の内容は掲載時のものになります。

Aさん(ベトナム・女性・技能実習生)は総菜製造工場で働いていました。同じベトナム人技能実習生と担当したのは餃子製造です。
小麦粉や水をブレンダー(攪拌機)に入れて餃子の皮のたねを作り肉だねを皮に包んで仕上げるまでの「成形」、そして「焼き」、「パック詰めと発送」という三工程があります。1日に製造する餃子は17,000~25,000パック、少ない日でも15,000パックです。
所定労働時間は8時~16時(休憩1時間)で、残業は1日に4~6時間、少ない時期でも1日1~2時間程度はありました。

餃子製造には、日勤・夜勤それぞれに数人の日本人作業者もいましたが、重い小麦粉や水などの手運びを繰り返す「成形」を担当するのは技能実習生でした。
作業の前準備、後片付けも実習生の仕事です。きつい仕事で2年も経たないうちに仲間2名が帰国しました。しかしその後の人員補充はなく仕事量は変わりませんでした。

過酷な三交代制の導入と補充されない人員

技能実習2年目の夏、Aさんたち実習生チームに三交代制勤務が導入されました。3~4名の組に分かれ、①5:00~14:00(11‐12時休憩1時間)②11:00~20:00(14-15時休憩1時間)③13:00~23:00(15-16時休憩1時間)で働きます。
会社借り上げアパートの部屋にはチームメンバー5~6名が共同生活をしていましたが、交替制で同僚たちそれぞれの出勤時間が異なるようになると、疲れて帰宅し布団に入っても別の勤務時間の同僚の出入りや生活音でなかなか眠れず、日々の疲労がたまるようになっていきました。
さらにAさんが悩んだのは手首の痛みです。毎日毎日、彼女の胸の高さくらいにある攪拌機の投入口に、5リットルの水、10キロの各種小麦粉を重い材料を両手で掲げ持って流し込む作業を繰り返します。そして餃子皮のたねが練りあがる度に機械下部の重い引き出しを引っ張りだします。こうした動作の反復で両手首の負担は日々の痛みとして現れ始めました。Aさんは仲間と一緒に、会社に対して不規則な勤務、過重な労働の改善を申し入れたりしましたが何も変わりませんでした。

手首の負担が積み重なり労災請求

三交替勤務開始から1年。Aさんの両手首の痛みはもう市販薬では回復しなくなっていました。そして、左手首の小指側にコリッとした固まりが現れ、触ると弾力と痛みを感じるようになりました。三年の技能実習終了が迫ったある日、左小指が腫れあがり、左手首が前後に曲げられないほどの痛みが生じました。
Aさんは整形外科のクリニックを受診しスマートフォンのアプリを使って医師に「手が痛い」と訴えました。おりしもコロナ禍によってAさんのベトナム帰国時期は延期されました。Aさんは監理団体に労災に関して相談をしましたが、実習生期間が終了していることを理由に「自分で会社に話しなさい」と言われました。
「労災申請をしたい」と課長に頼むと「技能実習期間が終わっているから労災にはできない」、「健康保険でなら治るまで通訳をつけて面倒見る」というばかりで労災手続きを進めようとしてくれませんでした。そこでAさんは地域のカトリック教会のベトナム人神父に相談し、改めて手の専門医のいるクリニックを受診。診察した医師は「左手関節TFCC損傷(三角線維軟骨複合体損)※」と診断し「仕事によるものだと考えられるので労災申請すべきだ」と言ってくれました。Aさんは労働組合に加入し労災申請。念願の労災認定を受けることができました。

※TFCC(三角繊維軟骨複合体):手首の尺側(小指側)の靱帯と軟骨の複合組織。主に2つの機能がある。①手を衝く小指側へ傾けた時に衝撃を受け止める。②手のひらを下や上に向ける運動(回内・回外運動)時に橈骨と尺骨(遠位橈尺関節)を安定させる。

安全と健康 Safety and Health「相談から」2022年2月号

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